未来

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…… 『…て』 『……を、…して』 「え?」 イチの声が聞こえて、イチの口を見るが、全く動いていなかった。 「イチ?!」 頬を擦るが、イチは更に体温を低下させていて、意識が戻ったとは思えなかった。 『…て』 「…」 またすぐにイチの声がした。 今度は瞬きもせず、イチの口元を見ていたので、イチの口から発せられた声ではない事に気が付いた。 …… そういえば…… 自分がどうやって一瞬で拘束から抜け出せたのかを、ようやく考え始めた。 私…… 一瞬の事で記憶はなかったが、あの抜け出した体の感覚を思い出す。 ……4次元? 今は3次元にいるのだと感覚でわかるが、あの抜け出した感覚は4次元にいる時の感覚だった。 しかも、自分から抜け出したのではなく、何か大きなエネルギーを感じて押し出された感覚を思い出す。 『そうだよ、花菜』 「あ…」 今度はハッキリとした声が耳に届いた。 それは、イチの声で、声の中に皆がいるような気がした。 4次元から話しかけていると感じた。 「どうしたらいい?イチを助けたいの!」 どうやって私を4次元へ押し出して3次元へ戻したかなんてどうでもよくなった。 私は今すぐイチを助ける為に、自分に何ができるかを急いで聞く。 『そうだね。まず、止血できそうな物を集めて、体に刺さっているガラスを抜くんだ。それから…』 私は話を聞きながら、使えるものをかき集めた。 幸い医務室のようなところだったので、怪我の処置ができそうな一式はたくさんあった。 その一式をイチの周りに置いて、聞いた通りに実行する。 医者でもない看護師でもない、血を見るだけで震え上がる自分が、冷静に血まみれのイチに触れているのが不思議だった。 棒状になったガラスを背中から抜くと、更に大量の血液が溢れ出てきた。 私はそれを冷静に視界に入れ、恐らくすぐに血で染まる白いガーゼを手に持って、両手でしっかりと押さえながら止血をした。 そして、その後溢れ出る血液が治まってくると、イチが言うのをためらった、傷口を縫い合わせる作業を、することになった。
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