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私は立ち上がろうとするイチに手を伸ばし、本当ならまだ歩ける状態じゃないイチが立ち上がるのを手助けした。
「回復が早くない事で、花菜とこうやって触れられる」
イチはニコリと私へ笑いかけた。
いつまでも、この笑顔を見ていたい。
そう、純粋に思った。
「もうすぐ首相とノアがここへ来る。俺が仕掛けた爆破装置と施設の制御装置のウイルスが、そろそろ最終段階に入る。その前にここから地上へ逃げ出すんだ」
足を引きずりながらドアへ向かおうとするイチへ、その時気になった事を聞くことにした。
「首相やノア、ここにいる人達はどうなるの?」
私の質問に、イチは優しい表情で話した。
「俺にはわからない」
……
思ってもみなかった答えが返ってきた事に驚くが、イチは続きがあると言うように頷いた。
「皆、逃げ出そうとすれば、逃げられる。ただ、それをするのが怖いだけでここにいる。このままここにいて、制御不能になった施設でも、生きていこうと思えば生きていられるかもしれない。
それを覚悟でここにいたければここにいればいい。
決断は、それぞれ自分にあるんだ」
イチの言葉に、私はイチとなら怖くてもどこへでも行けるという思いを、頷いて伝えた。
首相やノアが、どうするかは、私が決めることじゃない。
私は、私の決断でイチと一緒に行くことを決めた。
迷いはない。
私はもう一度イチへ頷いた。
地上へ出て、暮らせるどころか生きていくことさえ難しいかもしれない。
でも、ずっと殻に籠ってたままでは、羽ばたけない。
私はイチの手を強く握り、一歩足を踏み出した。
「量子って観測すれば、それになるんだよね?」
少しだけ遅れて足を引きずるイチへ聞く。
「そうだ」
イチは私の言おうとしている事がわかったのか、ニコリと笑いかける。
「私、地上は素敵な新しい世界って観測する」
「俺もだ」
イチは私の話しに間を入れずに同意してくれる。
そして、私達は新しい世界へと向かう為に、目の前の最初のドアを開いた。
ー完ー
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