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驚いた声の亀ちゃんに、私は畳みかけるように聞いてしまう。
「あと何日? 何時間? 何秒?」
これじゃまるで小学生の質問だ。でも知りたかった。あとどのくらい一緒にいられるのか。『先生』じゃなくなった亀ちゃんとは、もう会うことができないのか。
「教育実習は、あと三日間。正確には二日と七時間二十五分。つまり五十五時間と二十五分。分にすると三千三百二十五分。秒だと十九万九千五百秒」
驚くほど正確に伝えられたその数字が、果たして短いのか長いのか。私には分からない。そしていったいどんな表情で、そんな数字を私に伝えているのか。亀ちゃんの顔は、沈みかけた夕陽の逆光でよく見えなかった。
「さようなら。亀和田先生」
その数字がゼロになったとき、私と亀ちゃんの関係が終わりになってしまうのが辛くって、私はそのまま振り向かずに、廊下を駆けだした。
十九万九千五百秒は、こぼれ落ちる砂のように、瞬く間に過ぎていき……
「二週間、短い間でしたが、お世話になりました」
あっという間に、亀ちゃんの教育実習は終わりを迎えてしまった。
「大智センセー、せめて住所教えてぇ」
「はーい、御礼状とか書きたかったら、私を通しなさーい。ちゃんと転送してあげるから」
「えぇー、杉センだけずるーい」
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