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席についた亀ちゃんのオーダーを聞きながら、ドキドキが止まらなかった。もう会えないってあきらめていた亀ちゃんに、こうやってまた会えただなんて。
「亀ちゃん、甘党なんだ……」
思わず、口に出た言葉に
「あたり」
亀ちゃんが、『にへら』とかまぼこ目で笑う。ああ、好き。やっぱり私は亀ちゃんのこの笑顔が、ううん、亀ちゃんが好き。
「あのさ、綿谷さん、補習のときに、俺が言い掛けた話、覚えてる?」
「……補習のときに?」
「そう、『実習がちゃんとできたのも、綿谷さんのおかげだ』って」
「……はい、覚えてます。でも私は特に何も」
「イメージしたんだ」
「イメージ?」
「うん、綿谷さんが教えてくれた通りに、『明るい大学生』『優秀な教育実習生』『デキる数学教師』、そんな風に強くイメージして、それに近づけるようにがんばってみた。だからなんとか、二週間乗りきれた」
そうだ。確かに私が言ったんだ。「イメージして」って。
「改めて、お礼を言いたかったんだ。『ありがとう』って」
「……そう、だったんですね。それじゃあ私も、これからは『数学ができる生徒』をイメージして、がんばらないといけませんね」
真面目な亀ちゃんだから、わざわざこうやってお礼を言いに来てくれたんだ。……でもきっとこれが最後。最後のあいさつ。せめて笑顔で終わろうと、私はにこやかに答えた。
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