84人が本棚に入れています
本棚に追加
積極的に話しかけてみることにした。
「えぇ」
「今まではどんなバイトを?」
「通信教育の添削なんかを……。やっぱり、俺には接客業は向いていないですかね」
「そんなこと、決めるのはまだ早いですよ! あきらめるのは、全力出してから!」
「……ポジティブだなぁ、綿谷さんは」
「へへ、それしか取り柄がないもんで」
ポジティブ。前向き。私を称してよく言われる単語だ。でも大抵の場合、その言葉の裏には「暑苦しい」とか「押しつけがましい」とか、非難めいた意味合いを込めて向けられる事も多かった。けれど、亀和田さんの言葉にはそんな含みはなく、ストレートに私に届いてきたのが嬉しかった。
「でもどうしてファミレス? 亀和田さんの大学だったら、家庭教師とかだってひっぱりダコなんじゃ? 」
「……人と話すのが苦手だったんですけど、就活に向けてそんな事ばっかり言ってられないかなぁって」
「だから接客業を?」
「はい」
驚いた。亀和田さんもずいぶんと、「前向き」な人種だった。
「亀和田さん、敬語じゃなくっていいですよ。私の方が年下なんだから」
「いや、綿谷さんの方がここでは先輩だし、俺は教わる立場なんで」
「前向き」で「真面目」だ。
最初のコメントを投稿しよう!