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杉崎女史は、我が校の強豪バドミントン部の鬼顧問。出来の悪い生徒よりも、メダルの獲れる部員に目を掛けたくなるのも当然だろう。ということは、亀ちゃんが補習を担当するってことは、私の壊滅的なテストの成績が、バレてしまうってこと?
「……数学、嫌い?」
久しぶりのあいさつもそこそこに、亀ちゃんは私の資料らしき書類を見て、あきれたようにつぶやいた。無理もない。高校に入学してからの私の数学の成績は、惨憺たるものだから。
「……はい、苦手です」
『教師』の亀ちゃんを前にして、自然と敬語が出た。
「……そうか」
「いいんです。三年になったら文系選択するんで、この苦行もあと少しだから」
「『そんなこと、決めるのはまだ早いですよ。 あきらめるのは、全力出してから』」
「へっ?」
「綿谷さんが、そう教えてくれたんだよね? 」
「……あ、はい」
「まずは全力を出して向き合って、しっかり理解していこう」
そう言って亀ちゃんは「にへら」と笑った。すっかりイケメンになって現れた亀ちゃんだけど、眼鏡の奥のかまぼこ目は変わっていなかった。
「そこで『たすきがけ』を使うんだよ」
「……たすき、がけ? あぁ、あれか!」
因数分解のプリントに頭を悩ませながらも、次第におかしさがこみ上げてきた。
「なんだかバイトの時と、まるっきり立場が逆になっちゃいましたね」
「そうだね。俺も物覚えが悪くって使えないバイトで、綿谷さんにずいぶん迷惑かけたよね」
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