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「シエル君。多忙なのは分かるけど報告書にはきちんと目を通してもらわないと……まあ、いい。大変なのはここからなんだ」
タバコの煙を見つめ深刻そうな顔をしながら男は口を動かす。
「今月スカウトした3人、やられちゃったんだよねえ……」
えっ?やられた?
「そ、そんなはずは……」
そう、そんなはずはないのである。
何故ならスカウトした3人の転生者達、つまり勇者となった者達はやれチート能力が欲しいだの巨万の富が欲しいだのモテ属性をつけろだの無理難題を押し付け、転生させるかどうかを審判する神官からクレームが飛んで来て一悶着があったのである。
最終的には勇者不足から来る魔王軍の脅威を必死に説き神官を無理矢理納得させたのだ。
つまり、彼らには転生した瞬間から駆け出し勇者としてはあり得ないほどの能力と武器を与えたのである。
それがつい先日の話で……。
「駆け出しの森で3人とも低級モンスターであるリトルウルフにやられたみたいだ。ギルドから先ほど死亡報告書が上がってきてね、転生者追跡課からも関連報告書が各部署に既に上がっているはずなんだよ」
絶句して言葉も出なかった。
スカウト強化月間のノルマは5人、しかし死んでしまえばまた不足分は新たにスカウトしなければならないし何よりスカウトには素行調査や適性調査など時間がかかる。
なんでこんなことに……。
しばらくすると怒りのような感情も湧いてきたが、やるせなさでその怒りもすぐに消えてしまい、終いには虚無感が襲ってきた。
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