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「えっ!なんだって!そんなこと聞いてないぞ!」
俺の報告を聞いた課長の驚きに満ちた声が部署に響き渡り、課員の注目が一斉に降り注ぐ。
「私もつい先ほど事務次官から話を聞きまして……」
「第一、なぜ呼び出されたのは私じゃなくて君なんだね?」
自分の声でふと我に返ったのか、事務次官に呼ばれたのがなぜ課長の自分ではなく部下である係長だったのかという、そんな小さい疑問を俺に投げかけてきた。
「いえ、呼び出されたのは課長だったのですが事務次官から呼び出された際課長は席を外しておりましたので、代理として私がお話を伺った次第でして……」
なぜ俺がバツの悪い思いをしてこんな気遣いをせにゃならんのだ。
たまたま電話を受けたのが俺だっただけで事務次官が君でいいから来て、と言ったから行っただけなのだ。
本当に面倒臭い。
「そうだったのか、それならそれでいいか、うん」
何やら納得した様子で頷くと、俺に目を合わせなにか言葉を発しようとしている様子である。
何か嫌な予感がする。その予感はすぐに現実のものとなった。
「シエル係長、君を本案件の全権担当者とする。今回のスカウトは非常に緊急性を要するためチームを組んでもらう。君含めて4人が妥当だろう。チームスタッフはそうだな、君と……ミカ、カエサル、サラがいいだろう。本案件は最優先事項だ、頼んだぞ」
こんな王国の荒廃がかかった責任MAXな仕事の全権なんて無理に決まってるし、何かあった時の尻尾切り要員としか思えなかった。
このクソ狸野郎!そう怒鳴って掴みかかりたい衝動を必死で堪え、しかし声の震えは止める事ができなかった。
「全権とは荷が重すぎますし……課長はこの件に関してどう対応なされるおつもりで……?」
こう聞くのが精一杯の抵抗だったが、そんな抵抗はたった一言で打ち崩される。
「期待しているよ」
せめて目を見て言えよ……。
既に狸の目は山のように積まれた決裁文書を見つめていた。
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