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君知らぬ雨
お墓の前で泣かないで、って歌があったけれど、涙の一つくらい見せてくれてもいいと思うのよ。
まだ新しい墓石を丁寧に掃除して、花を供え、線香に火をつける、淡々とこなすその様をただ見つめる。
炎天下にご苦労様だ。
墓前にしゃがみ、目を伏せ、手を合わせる。
額に浮かぶ汗。
少し幼く見える横顔。
濃い木々の中から響くセミの声。
ほんの数か月前まで、並んで歩いていたのに。
「ねぇ。ここにいるよ」
手を伸ばし、頬に触れても気づかない。
微動だにせず、ただ墓石に向き合っているだけだ。
何を想っているかは、わからない。問うことも出来ない。
「また来るよ」
顔を上げ、笑ってくれる。
視線はかみ合わない。
こんなとこに来なくても、ずっと、そばにいるのに。気付いてもらえない。
「ねぇ」
もともとは幼馴染だった。
三つ下で、可愛い弟みたいに思ってた。
生まれた時から知っていて、そばにいた。
「大きくなったら、おねえちゃんとけっこんするー」
なんて、可愛いこと言われてぎゅっと抱きしめたりした。
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