被害者2

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 "彼"の取り扱いにおいて、最も注意しなければならないのが、彼は結果だけをもたらすという点だった。願いは叶えばその過程はなんでもアリだった。  僕はその時、部活でテニスのレギュラーにギリギリなれるかどうかという微妙な実力だったが、どうしてもレギュラーになりたいと思っていた。  そしたらテニス部で僕と同じくらいの実力の先輩が通り魔に合って怪我をした。金属バットで足を折られて居て犯人は不明だった。  僕だけが犯人は"彼"だと言う事を知っていた。  それから僕は願いの仕方を注意するようになった。僕は誰かに勝ちたいとか、いい成績を取りたいと願ってはいけなかった。  誰かに勝たなければならない時は、その人に勝ちたいではなく、その人より強くなりたいと願うようになった。また僕が誰かに勝ちたいと思ってしまった時に"彼"がどの様な形で僕の願いを叶えるかわからなかったため、僕自身が誰よりも強くなる必要があった。  僕自身が誰よりも強ければ、誰かを貶めて無理やり願いを叶える必要などないはずだった。 トレーニングを重ねて体を鍛え、頭も誰よりも良くなる様にできる事はなんでも試した。  もしかしたら"彼"の力が必要になったときに、"彼"が満足に力を使える様にと、"彼"に操られているのかも知れなかった。筋力の無い自分の貧弱な体にも"彼"は満足しないはずだった。  僕は結果的にテニス部のエースになったが、それ以上は望まずに大会に出ることもなくテニス部を辞めた。  "彼"には僕には無い特殊な能力があった。  それは魔法や超能力のような物では無かったが、僕からすればほとんど魔法と変わらなかった。"彼"の言葉は人を意のままに操る事ができた。  命令して従わせるような直接的なものでは無く、相手にそれは正しく最もな事だと納得させるだけのものだった。"彼"が言えば大人でもその内容に納得させられた。担任の先生ですら"彼"の言うことには納得し、思い通りになった。  テニス部の先輩が通り魔に襲われて僕が疑われた時も、"彼"の言葉を疑う者は無く、先生を味方に付けて僕を庇わせることで全員を黙らせた。  声の小さい僕がボソボソと全く同じ言葉を言っても同じ結果は得られなかった。良く通る声で、表情や声色や自信に満ちた独特の雰囲気を持って"彼"が言葉を使った時にのみそれは効果を発揮した。  僕はその能力を"悪魔の囁き"と呼んだ。
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