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展望室から死んだ街を見下ろしていた。
一面ガラス張りで、遠くまではっきりと見渡せた。
青い空を真っ二つに切り裂くような飛行機雲が見えた。尻尾の方は掠れて消えかけていた。
短くなったタバコを大理石の床に投げ捨てると、靴の踵で踏み潰して火を消した。室内だったが僕の行儀の悪さを注意する人は誰も居なかった。
不意に強い睡魔が僕を襲った。近くの長椅子に腰掛けてぼんやりと空を眺めた。
「どうしようもなく眠いんだ」
自然と口から言葉が漏れた。
隣に座っていた少女が僕の顔を見上げた。僕の言葉の真意を探るような瞳でまじまじと僕の横顔を見つめた。
僕はその視線を無視してだらりと背もたれに体を投げ出した。このまま目を閉じればあと100年は目が覚めない様な気がした。
少女は力の抜けた僕の体を抱き寄せると、自分の膝の上に僕の頭が乗るように誘導した。僕の体は彼女からすればとても重たかっただろうが、そんな事を気にする余裕も無かった。
そのままの体勢で僕らは退屈な外の景色を眺め続けた。飛行機雲は先程よりも少し伸びて遠くの山の奥の方に向かっていた。
あの事件から二年半が過ぎていた。
「このまま眠りに着く前に、彼のした事を全て思い出さなきゃならない。」
少女から反応は無かった。構わず僕は彼女の膝に向かって話し始める事にした。
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