1話 追い女-1

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「……?」  青年の動きが止まる。  しかしそれはほんの数秒であり、すぐにまた歩き始める。  ――こつり、こつり。 「……気のせいだ」  周囲には誰もいない――はず。  それなのに“誰かの足音”が聞こえる。  自分以外の誰かの足音が――  青年は今度は立ち止まらなかった。  気のせいだと言い聞かせつつその足を進める。  ――こつ、こつ、こつ、こつ。 「気のせい……か?」  青年は疑問に思った。  これは自分の足音だ。  自分の足音が夜の空気に反響して二重に聞こえているんだ。  そう自分に言い聞かせても違和感が残る。  もう一つの足音はあまりにもはっきりと背後から聞こえるのだ。  ――こつ、こつ、こつ、こつ。  振り返ることなくその足を前へ前へと進める。  一刻も早くこの場から離れるために、この恐怖感から逃れるために、ひたすら前だけを見て前進する。  しかし速度を上げれば上げるほど増してくるその音。  自分の背後に誰かがいる――  その疑念は払拭しようとすればするほどますます青年の脳内で膨らんでゆく。  ぴたり。  青年は足を止めた。  そしてもう一つの足音も止まる。  ――いっそ……振り返るか?  後ろに誰かいるのかいないのか。  いないことを確認すればこの不安感は払拭される。  ――しかし本当に誰か――“なにか”がいたなら?  もしも本当に自分を追うなにかがいたならどうするか。 「……誰かいるんですか?」  青年は前を向いたまま背後に声をかける。  返事はない。  振り向くしか確認するすべはない。  ――青年は意を決した。
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