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 そう言えば此処に来てからというものの、時間の感覚が狂っているようにも感じられる。  もう何時間も此処に居たような気がするのに、地平線を眺めても陽の光は一向に見えない。  実際は数十分程度しか経っていないのかもしれないが、この世界で陽の光を拝むことはないだろうという直感が私の脳内をこだまする。  つまり此処は夜の世界だ。  果てしない闇と、その眼下に広がる黒の海によって形成される、私の知らない夜の世界。  この場所にはこの場所に相応しい住人がいるのだ。 「あのさ」  震える脚に力を込めるのに集中しながら、私の唇は宿主の意思とは無関係に黒い巨人に向かって言葉を紡いだ。 「せっかく出してくれた料理の代金。やっぱり次来たときは支払うよ」  振り向き様にまるで映画やドラマのワンシーンのように言葉を送った私に、黒い巨人は一瞬呆けた後、やはり剥き出しの犬歯で笑みを作って恭しく頭を下げる。 「お待ちしております。貴方様から渡り賃を頂戴する、その時を」    次の瞬間、私の身体は宙を舞う。  走行する列車から飛び出したことと、海上を駆け巡る波風に襲われて、二転三転もしながら脆い体が水面へと飛び込んだ。  黒い空の下に広がる、黒い海。  それは酷く冷たく、しかし全く不快感を感じさせない穏やかな宇宙だ。     
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