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全身に反響する胸の高鳴りを感じながら席に再度腰掛けると、続いて窓の外だけではなく、乗っている電車の内装にも変化が現れていることに気が付く。
眠りこける前は10人ずつ程度に座れる長椅子が車両の左右に扉という間隔を空けながら配置されていた構図だったのだが、今や私が腰掛けているのは個室の1人席だ。
その有り様はさながら、電車というより蒸気機関車のそれに近い。
「こんな高等な客室を借りれるほど高収入ではないんだがな」
我ながら何とも情けない独り言だと思う。
白髪交じりの髪を掻き上げながら、好奇心から個室の外はどうなっているのだろうと扉に手を掛ける。
すると丁度個室の前を通り掛かった影が扉の硝子越しに見え、ワゴンサービスらしき女性が笑顔で声をかけてくる。
━━信じられないことに、その女性は列車の天井に頭が着くほどの身長で、絵の具を塗り潰したような黒い肌と長い金髪が特徴的な目無しの怪物であったのだが。
「何か御用で御座いましょうか?」
「あっ」
一瞬、言葉が出ない。
全くもって不思議なことに恐怖は一切感じなかったが、驚きというものは別にある。
理解の範疇を超えた異形を前にして恐怖を感じないとは。自分は臆病な性格だと思い込んでいたが、案外剛毅な性格なのかもしれない。
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