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ただ、人であれ異形であれ初対面の相手に対する緊張はやや抜けず、暫し脳内で口に出す言葉を試行錯誤した後、私の目に何かの液体の入ったボトルが映り込んだ。
「えっと、お酒。お酒は売ってるのかな? ひ、久しぶりの旅で気分が上がっちゃって」
些か言葉が多過ぎただろうか。
不審に思われたかもしれないと内心不安を懐く暇も与えず、目無しの黒き巨人は口元を三日月に歪める。
「ええ! ええ! 旅のお供にはお酒でしょう! そうでしょう! 何になさいますか!? 400年もののカルナジュルスナ!? それとも新種のネロットコセロット!?」
私がワインに詳しくないせいだろう。
黒き巨人は喜々とした様子でワゴンから次々とボトルを取り出し、酒の名前と特徴を私に伝えてくれるのだが、正直さっぱり判らない。
「あの」
「はい!?」
「ビールとか、ないのかな?」
まさか本気で飲むつもりはなかったが、何か既知の物体がこの未知の列車の中でもあることを知りたくて。
ダメ元で思い切って訪ねてみたのだが、黒き巨人の反応は予想していたよりも遥かに好意的な接客態度だった。
「ええ! ええ! 御座いますとも! すぐにお接ぎ致しますのでお座り下さいませ!」
景気の良い挨拶と共に、突如として、黒き巨人の背中辺りから何かが伸びる。
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