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「ああ! いや! そうじゃなくて!」  一体何から尋ねるべきか。  しかし、何処からどう見ても好意的な相手に無礼な質問をいきなり投げ掛けるというのも気が引ける。  暫し考えた後、私が口にした最初の質問は料理に手を付ける前にどうしても訊いておかなければならないことだった。 「……支払いなんだけど。その、現金……日本円って使えるのかな……?」  此処が何処か。眼の前に立つ君は何なのか。  尋ねたい質問は山のようにある。  しかし、何よりも今すぐに尋ねなければならなかったのは、この用意された持て成しに対する対価についてだ。  なるべく間違いを犯さないように生きてきた人生だ。例え、此処が酔いの内に彷徨った夢の中の世界であっても、無銭飲食などといった行為は避けたい。    そのような馬鹿真面目な心情が伝わったのかどうかは定かではないが、緊張した面持ちの私に、黒き巨人は両側に下げた手を動かすことなく、触手を左右に揺らして私の言葉を否定する。 「ああ、いえいえ! お代金は頂きません! 渡り賃は既に戴いておりますから!」  これは奇妙なことを言う、というのが率直な感想だ。  渡り賃。渡り賃と黒き巨人は口にした。  そんなものを支払っただろうか。     
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