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 何処か影のある、しかし世が世なら絶世の美女と称されたかもしれないような、それこそ美術品のような面持ちの女性。  しかし、沈鬱な表情と何故か彼女は靴を履いておらず素足で、彼女自身の美しさよりも奇妙な点ばかりが見る者の目を引かせる。  彼女は私と目が合うまで窓越しに景色を眺めていたようで、私の存在に気が付くと甲斐甲斐しくもわざわざ頭を下げて礼をしてきた。  一瞬、間を置いて慌てて此方も頭を下げるも、硝子越しであるため会話はない。    それにしても状況から判断するに、これから旅行だというにはあまりに沈鬱な表情だった。  果てしなく広がる黒い海も、暗い空が支配する真夜中の世界も、全てを取り込んで上で受け入れていないかのような。  何となくだが、彼女とはもう二度と出逢えないような。そんな言いえぬ感覚が私の胸に静かに纏わり付いていた。 「はいはい、失礼します。あの、列車が勝手に絡め取っちゃったお客様を発見したのですが」  黒き巨人の先導のもと、私はいつの間にやら列車の機関部に辿り着いていた。  凄まじい熱気と燃えるような臭い。  黒き巨人の声を聞いた影は、さながら3つの顔と6本の腕を持つ阿修羅の如き姿であり、その身体は声を聞きながらも列車の心臓部である火室にシャベルで掬い上げた燃料を投下し続けていた。 「なぁにぃ?」     
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