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私は夜に囚われていた。
いつもの会社から、いつもの飲み屋を梯子し、いつもの電車で帰路に着く。
自分の家が終点近くにあることを良いことに最後の電車で船を漕ぐまでがいつもの日課だ。
だからいつも通り。いつも通り、私は仕事の疲れとアルコールの酔に流されて、うつらうつらと意識を朦朧とさせていたのだが。
一瞬。酷い頭痛と共に目を覚ますと、其処は『いつもの』とはとても言い難い景色が広がっていた。
海だ。
後頭部を預けている窓からの隙間風も、あの独特な磯の香りを臭わせている。
暗い、暗い、夜の海。普段暮らしている街では到底お目にかかれないような夜空の元、窓の外には何処までも広がる海が拡がっていた。
寝ぼけているのだろうか。
それにしては電車の揺れも妙にリアルで、と考えたところで私は漸く気が付く。
窓から外を覗き込めば地平線の果まで海が続いており、眼下にも当然ながら海が拡がっている。
つまり、この電車は海の上を走っている。
驚きを通り越して私はちょっとした感動を胸に懐いていた。
久しく感じていなかった、少年のような好奇心が胸を優しく撫でててくる。
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