昔馴染み

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「良い訳ないだろう!」 レオニードが強い語気で言う。 こんな言葉遣いを劉祜にしたことは無かった。 「それでも、友を殺す程の理由は無いだろう」 静かに劉祜は言った。 彼は別に友ではない。 晃と劉祜の関係とは違うのだ。 劉祜がレオニードのことをどれくらい嫁入りの際に調べたのかは分からないが、多分調査結果に彼の名前は無かったはずだ。 「俺はその位の覚悟も無くアンタとの逃亡を選んだ訳じゃないですよ」 果たしてレオニードはきちんと笑えていただろうか。 劉祜はレオニードの顔を見て悲しそうに顔をゆがめたので、失敗していたのかもしれない。 そもそも劉祜が王をやめたのは逃げではないのだけれど、そうさせてしまったかもしれないというレオニードの本音がもれてしまった。 逃亡という言い方は彼の今までを否定してしまうかもしれない。 レオニードはあの守り石を言い訳にしたときの様に劉祜を失望させてしまったかもしれないと体を固くした。 劉祜は大きくため息をつくと「んー、続きはこんな表でやるべきじゃないな」とだけ言うと、相変わらず地べたで涙を浮かべているかつての同僚を軽い感じで担いでそのまま彼の拠点にしているとある商店に向かった。 商談用の応接室に入ると劉祜は担いでいた人間を下ろす。 それからびくびくとおびえながら室内を見回すその男に「なあ、なぜあの場所にいた?」と聞いた。 怯えた目をレオニードに向けてから視線を劉祜に戻した男はおずおずと答えた。 「軍は辞めさせられた。 魔獣が俺の配属されていた地方にはでなくなったから。 それで、傭兵になったんだけど、俺は熱い地方での戦いに向かないからってこの街で契約解除された」 その後はその日暮らしをしてる。 もう国にも義理もないし、仕えるべき主人だっていない。 「だから、俺はあんた達のことを誰かに言ったってなんの得もない!」 それにと、思いつめた顔で後を続けた。 「あんたらが俺がどこかで何かを言うのが嫌だっていうなら、俺を雇ってくれ。 主人を裏切るような真似をチルクの傭兵は絶対にしない」 チルクというのはレオニードの生まれた国の特に寒い地方の名前だった。 主君を必ず信じるという逸話の残る場所だということはレオニードもよく知っていた。 レオニードはその言葉に一瞬悩んだ。 悩んでしまった。 「いいんじゃないのか。とりあえずお試しってことで契約をすれば」 劉祜はそう言った。 駄目だったら殺せばいい。暴虐王であればそう付け加えそうな感じの言い方だった。 レオニードは劉祜が何を考えているのか分からなかった。 「レオが悩むならそうすればいい」 劉祜はそう言った。 レオニードは大きく息を吸ってはいてそれからかつての戦友を見た。 「巻き込んですまない。 だけれど、俺たちのために働いてくれるか?」 しゃがみこんで目線を合わせてレオニードはそう言った。 男はぶんぶんと大げさなほど首を縦に振った。 レオニードは本当にこれでいいのかが分からなかった。
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