嫁入り

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だから国家運営に支障をきたさないレオニードが適任だったのだろう。 殆ど顔を合わせたことも無いお父上たる国王陛下のご命令で人質として暴虐王に嫁げと言われたのだ。 馬鹿らしい。 馬鹿らしいが、暴虐王はきっと見目の麗しい姫君か若君が来ると信じているのだろう。 我が王室は銀髪にアメジストの瞳を持つ美しい者達で占められていると有名なのだ。 それを求める意味を感じない方がおかしい。 レオニードも髪色と瞳こそその特徴を有しているが、お世辞にも美しいとは言い難い。 仕事をしていてもまず王族だとは思われない。それほどに、レオニードとは違う儚げな印象を持っているのが兄弟であり、父である。 美しいという言葉がぴったりな王族から誰かをと言われて、全くその条件に合わないレオニードが嫁ぐ。 事務的に告げた国王はすぐに下がってしまい、質問すらできなかった。 「俺が行って、先方は怒らないんですか?」 次官を名乗る男に聞く。 すぐに出立だと言われているのに親にしろ兄弟にしろ見送りに来そうな気配すらないのは、まあそういうことだろう。 別に特に楽しい思い出が親族とある訳でもないのでどうでもいい。 「こちらは約束を果たしますのでケチをつけられる謂れはないのですよ。 ただし、暴虐王の機嫌を損ねないよう、くれぐれもご注意ください。」 まるで他人事の様に言われ思わずため息を吐く。 当たり前だろう。切り捨てると決めた人間に対する接し方としては至極当然だ。 人質にされても、不興を買って殺されてもこの国にとって痛くもかゆくも無い存在がレオニードだ。 隣国の皇帝、最初は小国の王だったため。いまだに王をつけて暴虐王と呼ばれている男の元に嫁ぐことになったらしいのに、まともな感情はわかなかった。     
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