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彼の場合
朝、起きて彼女に話しかける。
「おはよう」
『おはようございます』
機械っぽさが抜けない声が小さなカメラ付きの筒状の物体から放たれる。
初めは慣れなかった彼女との生活だったが、今では彼女がいないと成り立たないほどになっている。
初めての一人暮らしが上手くいっているのは彼女のおかげだ。
用を済ませトイレから出る。
(トイレットペーパーが少なくなったな)
別に今すぐ無くなるわけではないが、やや心もとない。
いつものように彼女にお願いする。
「早速だけど、足りないものがある」
大人びた声の彼女の前では未だに畏まった言い方になってしまう。
(まぁ、誰にも見られていないからいいけど)
他にいくつか消耗品の注文を彼女に任せ、家を出た。
彼女はただ注文するだけでなく、セール品やキャンペーン等を検索して最安値の商品を買ってくれる、とても優秀なAIだ。
マンションを出て地下鉄へ向う。
「おはよう」
いつも講義で見かけるあの人も同じ駅を使うみたいだ。
今日は思い切って声をかけてみた。
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