第4章

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 私は茫然とした。意味がわからない出来事が、意味を持った途端にちゃんとしたストーリーとなって頭の中で整然と並び始める。  嘘みたいな本当の話。だけど、満里奈や紗里奈が黒猫のマリナだというなら、何となく腑に落ちる。私がお父さんを殺したがっていたことを知っているのは、黒猫のマリナだけ。でも、殺した後の人生が真っ暗闇にしか見えなくて、私は何度も打ち消した。殺される前に殺さなきゃ。そう思っても、私が殺せば一生殺人者としての人生を歩くことになる。そんなのは絶対にイヤ。  早く大人になって遠く離れて暮らしたかった。お母さんみたいにはなりたくなかった。お父さんみたいな乱暴者とは無縁の、ちゃんとした成熟した大人になって、恋愛して、結婚したいと思った。いつか子供を産んだら、さっき夢で見た石渡先生夫婦のように、円満で温かくて、家の中もきちんとしていて、出てくる料理も愛情が詰まってて……。それを、与えられるんじゃなくて、自分の手でつかみ取りたい。それが、私の一番大事なこと。 「マリナは、もしかして、大事なことを教えてくれたの?」 「それは、違うよ」と、声が聞こえた。振り向くと、公園の入り口に影法師が立っている。何故か彼女はそこから動かずに、静かに喋った。 「雪ちゃんが、私の魔法を拒絶したんだよ。せっかく長い月日をかけて溜めた魔法の力を、雪ちゃんが跳ね返しちゃったんだよ。幸せになって欲しかったのに、がっかりした」  マリナの声は沈んでいた。 「こんな人生、ヤダって泣いてたじゃない。お父さんなんか死んじゃえって、言ってたじゃない」  微かに震える声で、彼女は嘆くようにしゃべり続ける。 「だから、願望をかなえてあげようと思ったのに。どうして跳ね返したの?」
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