裏切りという名のペルシャ猫

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 その時。映画『モーゼの十戒』のワンシーンみたいに、人波が一瞬割れて、その先に目当てのものが微笑んでた。  まるで初めから俺を見てたように、ハッキリと目が合う。パープルアイズと。  人を選ぶから大胆な色使いと言えるホワイトのスリーピースの首元には、瞳の色に合わせたものか、ライトパープルとブラウンのストライプのネクタイが締められてた。  右手にはシャンパングラス。スラックスのポケットに入ってた左手がゆっくりと上がって、先の俺みたいに、『柄』もののネクタイを直してみせる。そのまま流れるような動きで、長めに伸ばされたプラチナブロンドを耳にかけた。  血統書付きのペルシャ猫。それが、第一印象だった。  だけど明確に見えたのはその一瞬で、また人波が行く手を阻む。気付くと俺は、ぶつかりそうになる肩をかわして、ほぼ一直線に大股でそこを目指してた。  こんな上玉には、もう逢えないかもしれない……。だが鼻先の差で、禿げ親父が彼に声をかける。ペルシャ猫は、苦笑した。 「ゴメンナサイ。ニホンゴ、ワカリマセン」 「言葉なんか分からなくたって、いいじゃないか。男が欲しいんだろう? 金なら……」  俺は禿げ親父の肩を、後ろから思い切りわし掴んだ。 「なっ、何だ!?」 「失礼。それは、ルール違反だ。会長に知らせたら、もう貴方に招待状はこないだろうな」  そして耳元で、囁いた。 「今すぐ消えれば、黙っておいてやる」 「ぐっ……」  禿げ親父は、シャンデリアの光を乱反射する頭の先まで真っ赤にしたが、すごすごと退散していった。  パーティを楽しく過ごすには、マイナールールが必要だ。  俺はほぼ同じ高さのパープルアイズと目を合わせて、紳士的に微笑みながら、ペルシャ猫に声をかけた。 『やあ、楽しんでるかな』 『ええ』
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