裏切りという名のペルシャ猫

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 大学はイェールカレッジだったから、ネイティブな発音の英語で話す。  ルール、その一。まず、花を誉める事。  壁際には、色取り取り様々な種類の花が飾られていたが、彼の横には白いカラーの花が柔らかくしなってこうべを垂れ、品のいい美を競っていた。 『美しい花だ。薔薇ほど嫉妬深くなく、蘭ほどお喋りじゃない』  彼は、クスリと笑った。少し、気障が過ぎただろうか。 『素敵な誉め言葉だ。嬉しいね』  切れ上がったまなじりが、うっとりと笑む。好感触だ。  ルール、その二。乾杯で、返事を引き出す事。 『お近づきの印に、乾杯して頂けるかな』 『……何に?』  ペルシャ猫は、面白そうにちょっと焦らす。ここでがっつく奴はお断り、って事か。 『君の、深淵のようなパープルアイズに』  今度は、小さく噴き出した。 『ふふっ。よく、そんな台詞が真顔で言えるね。……いいよ。乾杯』 『ああ、乾杯』  シャンパングラスを軽く掲げて、俺たちは一息にサロンを干す。何処からともなくウェイターがやってきて、シルバーのトレイに空のグラスを下げていった。 『部屋は?』 『まだ取ってない。お望みなら、最上階のスイートでも取ろうか』 『いいや。日本って地震が多いじゃないか。高ければ高いほど揺れるから、下の方がいい』 『仰せのままに』
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