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そうして取った、六階の部屋に入った途端、ペルシャ猫は俺のネクタイをぐいと引いて、口付けを強請った。でも、さっきの仕返しだ。俺は流されず、いったん僅かに身を離す。
互いに間近で見詰め合って、物欲しそうな唇を見て、また見詰め合う。何度か繰り返したあと、ゆっくりと、ぺろりと一度、唇を舐め上げられた。
胸板に掌が当てられて、徐々に力が加わる。俺は押されるに任せて、キングサイズのベッドに腰かけた。スプリングが細やかに軋む。
「……名前は?」
ペルシャ猫は、片言でなくハッキリと訊いた。
「日本語、話せるのか?」
「ああ。禿げ親父が、好みじゃなかっただけ」
「言うな」
ただの愛玩用ペットではないらしい。俺は久々の手応えに、くつりと笑った。
「名前は?」
逆に問い返す。このパーティは、一夜の夢幻(むげん)がルールだ。名前など、ほんの数時間の記号に過ぎない。
「アダム」
俺のネクタイを解きながら、面倒臭そうに呟かれた。
「はは。林檎をかじったあとの、アダムだな。いつも、その名前なのか?」
「ああ。んっ……」
首を傾け下から掬い上げるように唇を合わせて、上下に軽く揺さぶりながら、しっとりとした感触を食む。
「んっ……ふ。あっ」
俺の股間の隙間のベッドに片膝を乗り上げて、覆い被さってる尻の膨らみを、両手で痛いほど掴み上げた。
「俺にとってお前は、三ヶ月ぶりの『スペシャル』なんだ。名前くらい、『特別』にしてくれよ……」
白い耳の輪郭を舌でなぞると、白人特有の淡いピンク色に、そこは染まった。
「じゃあ……ユダ」
「クリスチャンなのか?」
「まさか」
ベストとワイシャツのボタンが、外されてく。あまり積極的なネコに当たった事のなかった俺は、流れ落ちるプラチナブロンドを撫でて、成り行きを楽しんだ。
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