色づいた嘘の果て

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「最初から直球勝負してたら、どうしてました?」 「んー?」  今日は最近伊織が贔屓にしているクラブチームの試合の日だった。いつものように、いやいつも以上の熱心さで動画配信の画面に釘付けになった伊織の後頭部に向けて、近堂は何気なさを装って声を掛けた。聞きたいような、聞きたくないような。だからといって聞かずに悶々とし続けるのはもっと嫌だった。それに。狡い声が頭の隅で囁く。今なら、例え答えがなくとも彼の意識がサッカーに夢中になっているからだと自分を納得させることが出来る。 「直球勝負、って、俺らのこと?」  こんなときに限って、伊織はきちんと反応する。あれほど楽しみにしていた試合中継からいとも簡単に視線を外して、彼の目は真っ直ぐに近堂を射抜く。ああ、だから、こういうところが堪らないのだ。近堂は跳ね上がる鼓動を無理矢理押さえて、そっと頷いた。 「はい。もし、最初から好きですって言ってたら、どうだったのかなって」 「……多分、今みたいにはなってなかった、かな」 「ですよねえ……」  毎回のハグという奇妙な習慣が始まる前、伊織は確実に恋愛感情を抱いていなかったと思う。それならば、と。考える前に口を開けていた。 「伊織さんは、いつから俺のこと好きになってくれたんですか?」  ずっと気になっていた。どんなに近づけたように感じても、どれほど近くに体温を感じても、決して自分から縋ってくることはなかった彼。だから、初めてキスを交わした日、確かな感情を乗せて柔らかく微笑む口元に、近堂の心臓はのたうつように暴れ回ったのだ。まさか、まさか、そんなはずがないと。 「んー……」  一瞬考え込んだ彼が、ひょいひょいと手招きをした。呼ばれるまま近づく。驚く間もなく首の後ろに手を回されて、みっともなく倒れ込みそうになるのを何とか堪えた近堂は、耳元で囁かれた言葉に頭を抱えたくなった。 「教えてやんない」  答えになっていない台詞自体にではない。低く囁かれた声に秘められた、どうしようもなく甘やかな響きが、まるで背中を電流のように駆け下りていったからだ。暴走しかけた理性をなんとか取り戻した近堂は、楽しそうに声を上げて笑う伊織を抱きしめながら、いつか必ず聞き出してやろうと決意を固めるのだった。 End.
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