ほんの少しだけ、好き

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ほんの少しだけ、好き

 「アンタ俺の師匠になってくれねぇか」と、同じクラスの瀬古くんに絡まれたのが三日前。美術部の私は部室に向かう途中の廊下で、持っている荷物を盛大にぶちまけてしまった。授業で使っているノートや筆記用具の中に紛れて、プリント裏の落書きや漫画のネタ帳までもが大公開状態でもう大変。ただでさえ落とした物を掻き集める姿が惨めだというのに、よりによって自作のキャラクター設定が描かれたノートまで落としてしまうなんて。こんなもの誰かに見られたらオタクキモいと笑われるに決まってる。確かに私はオタクでキモいかもしれないが、学校での人権は失いたくない。落とした場所があまり生徒の行き来が多くない旧校舎だったのがこれ幸いと、私は急いで自分の創作物たちを掻き集めていた。  私が手を伸ばすより先に、誰かが私のノートを拾った。よりによって、イラストだけでなく漫画のアイディアやポエムを綴った私が一番人に見られたくないノートを。  「これアンタが描いたの?」     
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