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瀬古くんの補習期間が終わって、私たちが学校で会うことも新学期までなくなった。もう瀬古くんとは自然体で話せるし、連絡先も知っていたけれど、たわいのないメッセージのやりとりをするのはなんだか気が引けてしまって、私は一度も瀬古くんに連絡できずにいた。一応私は瀬古くんの師匠ではあるのだけど、果たして私達の関係は傍から見て友人と呼べるものなのだろうか。こんなことを考えているのも私だけなのだろうな、と、私はベッドの上で枕を抱きしめながら大きくため息をついた。
スマートフォンから新しいメッセージがきたことを知らせる通知音が鳴った。送信相手を確認すると、相手は藤田さんだった。
『こんにちは。暑い日が続くけど元気にしてる?部誌に載せるものはもう考えた?それと、幽霊部員の新入部員って一年生じゃなくて瀬古くんだったんだね!驚いたけど、それならそうと早く言ってくれればよかったのに。瀬古くんは部活に来る気はないの?』
美術部では毎年9月に行われる文化祭で絵の展示を行う他に、年に一回部誌を発行している。内容は絵でも漫画でも描きたいものを自由に載せることができた。藤田さんからのメッセージを見て、私はピンときた。瀬古くんの描いたものも部誌に載せてみたらどうだろうか?当初は人数合わせのためだけに瀬古くんを美術部に入部させたわけだけど、もし瀬古くんが望むのであれば、瀬古くんが部活に来てはいけない理由などないはずだ。
私は部誌に何を載せるかはまだ決まっていないことと、瀬古くんが美術部の活動に参加する気があるかどうかを確認してみることを藤田さんに伝えた。すると、五分と待たずに藤田さんから返事が返ってきた。
『そっか~私もまだ悩み中。そうだよ、折角だから瀬古くんも部活に出ればいいんだよ。瀬古くん、漫画好きなんだね。すごい意外だったけど、最近の吉岡さん見てたら瀬古くんが悪い人じゃないってことはわかるから。吉岡さん前よりもよく笑うようになったよね。それって瀬古くんのせいでしょ?』
藤田さんは嫌なくらいに察しがいい。なんと返せばいいものかわからなくなった私は、ネコのスタンプを三つ送りつけて、スマートフォンをベッドの上に投げた。
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