ほんの少しだけ、好き

16/19
前へ
/19ページ
次へ
 文面を考えるのに三十分、メッセージを送信するのに三十分かけて瀬古くんとやり取りした結果、今日の部活に瀬古くんも顔を出すことになった。美術部の活動自体にあまり興味はなさそうだったけど、部誌の話をすると、どういうものか見たがっていたので、それなら次私が学校に行く日に合わせておいでよ、と誘ったのだ。  美術室に着くと、まだ扉には鍵がかかっていた。一番乗りで着いてしまった私は鍵を借りて、静かに美術室に入る。時計を確認すると時刻は午後一時十五分。部活の時間まではあと三十分以上もあった。瀬古くんに会うのは二週間ぶりで、なんだか緊張する。  私がそわそわしながら手持無沙汰に過去の部誌をめくっていると、「おっす」と言いながら瀬古くんが入ってきた。  「三十分前だぞ?俺が一番だと思ったんだけどな」  「瀬古くんおはよう。って言ってももう昼過ぎだけど」  私は精一杯自然な風を装って瀬古くんに声をかけた。ちゃんと自然に振る舞えているだろうか。この緊張が、どうか瀬古くんに伝わりませんように。  「なんか久々だな。吉岡に会うの」  そう言いながら瀬古くんは近くにあった椅子に腰かけた。  「二週間前は毎日会ってたから、久しぶりな気がするね。私が出した宿題やってきた?それとも夏休みを満喫しすぎて忘れちゃった?」  「吉岡のこと忘れるわけねぇだろ」  瀬古くんのぼそっと呟いたその言葉に、私は自分の体温が上がるのを感じた。認めたくないけれど、私の中で瀬古くんの存在がとても大きなものになっているということを改めて実感した。  私が瀬古くんに部誌の話をしようとしたその時、突然、ガラッと扉が開いた。そこにいたのは数学教師で私たちのクラスの担任の細川先生だった。細川先生は一応美術部の顧問だが、名ばかりの顧問なので部活に顔を出すことは滅多になかった。なので、先生が一体なんの用だろう?と私は思った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加