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「……は?」
瀬古くんはおもむろに立ち上がった。その目は怒りに燃えていて、今にも細川先生に掴みかからんばかりだった。
「本当に違うんです!私の成績が落ちてることと瀬古くんは関係ありません!」
思わず私は細川先生と瀬古くんの間に割って入った。一方的に瀬古くんを責めるかのようなその口調に我慢ならなかったからだ。
「今まではやりたいことを諦めて、とりあえず良い大学に行こうって、私には勉強くらいしかないからって、それしか思ってなかったんです。でも、もうやりたいことを諦めるのはやめたんです。瀬古くんだってそうです。瀬古くんにも夢があるんです。彼はその為に努力してます。私なんかよりよっぽど努力してます。何も知らないのに彼の夢と努力を否定することだけはやめて下さい!!」
叫ぶように言いながら私はボロボロと涙を流していた。怒りで手が震えるという経験は初めてだった。表情を崩さないことに定評のある細川先生が困ったように目を泳がせている。普段大人しい私が声を荒らげる姿に細川先生は面食らったようだった。
「わ、わかった。吉岡がそこまで言うならな。だけど勉強だけはしっかりやるようにするんだぞ」
そう言い残して、細川先生は美術室を後にした。私は両手を固く握りしめながら、旧校舎から出ていく先生の背中を見つめていた。
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