ほんの少しだけ、好き

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 授業で美術室が使われることのない木曜日の放課後が瀬古くんへのレッスン日になった。見ながらであれば描けるという瀬古くんには二次元のイラストを模写して漫画的キャラクターを描く感覚を掴んでもらうのと、人体のデッサン本を見ながらアタリをつけて一人の人間を描く練習をしてもらうようにした。瀬古くんが描いている間は私も絵を描いたり漫画の話を考えたりして過ごし、瀬古くんが描き終わった絵を見ては私は改善点をアドバイスした。  「瀬古くんは漫画を描きたいの?」  私はデッサン本をめくる手を止めて瀬古くんに尋ねた。  「おう、描けるもんならな。俺昔から漫画好きなんだよ。だから漫画ならなんでも読むぜ。姉貴がいるんだけど、こっそり姉貴の部屋から漫画持ち出して読んでるしな。面白いよな少女漫画も」  最初、瀬古くんの目標は一枚絵を描けるようになることかと思っていたのだけれど、どうやら漫画を描くことが瀬古くんの目標らしい。しかし瀬古くんが少女漫画を読むなんて、瀬古くんの見た目からは想像もしなかった。それを本人から直接聞いた今でもちょっと信じられないくらい。  「男子でも少女漫画読む人いるんだ?正直、瀬古くんが絵の描き方教えてくれって言ってきた時も驚いたけど、もっとびっくりだよ」  「まぁな、男で読んでるやつはほとんどいねぇからな。話せるやつもいねぇし、学校で読んでもいちいちいじられてメンドクセーから」  私は教室で大人しく少女漫画を読む瀬古くんを想像して、その可愛らしさに思わず笑ってしまった。ギャップというのはこういうことか、と思った。  「つい最近、姉貴が雑誌を買わなくなっちまってよ……単行本は買うから続きが読めるんだけどよ、それ以外の話がだな、どうなったのか気になって夜も眠れねぇ。かと言ってあの表紙をレジまで持って行くのはな……」  「それ、なんて雑誌?」  「なんつったかな、確かスイーツみたいな名前のヤツ」  「あ!それなら私毎月買ってるけど、貸そうか?」  「マジかよ!頼むわ!」  それから私達は新連載の漫画の話で盛り上がった。瀬古くんは話しながらもざかざかと手を動かしていて、二つのことを同時にできない私は器用だなと思いながら瀬古くんを見ていた。クラスの男子に少女漫画雑誌を貸す日がくるなんて思ってもみなかった。
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