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「そういや、吉岡下の名前なんつーの?」
この日の瀬古くんは手の形をしたデッサン人形を模写していた。影の薄い私がクラスメイトだということすら瀬古くんは知らなかったのだから私のフルネームを知らないのも当然だった。
「い、いいじゃない別に私の名前なんてどうでも!」
「そう言われると逆に気になるだろうが。教えろよ」
「……ゆり」
「なんつった?」
「……美百合。美しい百合って書いて美百合」
私は自己紹介が嫌いだった。小さな頃はむしろ、みゆり、という響きが好きで自分のことは下の名前で呼んでいた。だけど大きくなるにつれて、名前を言うと顔をじろじろ見られたり、あからさまに小馬鹿にされるようになった。彼らの目は決まって「どう見たって美百合って顔じゃないだろ」と言っているようで、その人を値踏みしたような視線が私には苦痛だった。
「少女漫画の主人公みてーな名前だな」と瀬古くんは呟いた。
「似合わないでしょ?私、自分の名前好きじゃないから」
瀬古くんも似合わないって思ったんだろうな。ほらね、だから言いたくなかったのに、と思った私に対して、瀬古くんはこう言った。
「は?なんで?漫画みたいな名前とか最高じゃん」
最高?そんなこと言われたことがなかった私は動揺して、つい常日頃思っていることを吐き出してしまった。
「だって私ブスだし、暗いし、全然可愛くないし、運動だってできないし、ブスだしこんな名前少しも似合わないんだもん!」
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