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夏の陽射しが無慈悲に降る外で、近所の友だちと遊んだ。といってもブランコをこいだり、ジャングルジムに登るぐらいだ。
家に帰ると大きな窓を開けたリビングに、母が切られたスイカを持ってきた。私はウトウトしていた。
「スイカ、食べないならしまっちゃうわよ」
母が台所から顔を覗かせる。
「お母さんも一緒に食べようよ」
私は目を擦る。
母は少し待つようにいうと、忙しく動いてエプロンに濡れた手を押し付けながらリビングにきた。
「不況に誘拐か、いいこと無いなあ」
母は皿に敷かれた新聞を見て、ため息混じりにいった。地元出身の力士の優勝や、新知事の就任を伝える記事もあったが、母の関心はほとんど家計と子供のことだった。
「お小遣い減らさないでよ」
先手を打ち、私はスイカをつつく。
「それよりあんたも誘拐には気を付けるのよ、知らない人についていかないこと」
母はエプロンのポケットから小さめのフォークを取り出してスイカを食べる。
一人娘が心配なのか、母は私をいつまでも子供扱いする。母の心配性は未熟児で生まれた私が、生死の境をさ迷ったことが遠因なのだと父に聞かされていた。けれどそれでも少しムッとした。
「大丈夫だって、誘拐は中学生ばかりだから」
母は聞いているのかいないのかスイカを運ぶ手を止めない。
「そうねえ、でもあんたは時々、変なことをいうし心配なのよ。空を飛んだとか光がどうだとか」
「そんな前のこと持ち出さないでよ! あのときは……そう! 具合が悪かったのよ!」
不意をつかれ動揺した。当時はまだ子供で、いっていいことと、隠すべきことの区別がつかなかった。
例えば空を飛んだこととか。
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