赤と青の芽生え

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

赤と青の芽生え

 私が初めて空を飛んだのは小学四年の秋だった。  けれどそのことを話す前に、赤と青について話さなくてはならない。なぜなら、それなしでは飛ぶことができないからだ。話は私がうんと幼い頃に遡る。    小さい頃から私は夜の暗がりにいると何もないはずの空間に、赤と青に光る点々が、私の胸の辺りから綺麗に並んで流れていく光景が見えた。  親や大人たちのいう「あまのがわ」がこの光なのだと思っていた。    けれど両親と寝ていたある日、 「あまのがわきれいだね」  と私が光を見ていうと父が、 「おもしろいことをいうんだね」  といった。  父は気にしなかったが、私は気付いた。これは皆に見えている訳じゃないのだと。    小学校に入ると一人で寝るようになった。怖いとか、寂しいとかは感じなかった。暗闇に包まれても赤と青の光を見ていると安心した。    学校にもなれた頃。私はベッドに寝ながらそれを触ってみようと思った。そう思ってみると今まで触ろうとしなかったのが不思議だ。  胸から滑らかに続く赤と青の光、それに手を上からそっとあててみる。  触れると、それはほのかに温かくてやわらかい。私はその感触を直ぐに思い出した、いい香りまで漂ってきそうだ。私はこの赤と青の点々を「パン」と名付けた。    それからは夜が楽しみになった。パンでいろいろなことができるのを発見したのだった。例えばハンモックのようにしてみたり、布団の代わりにしてみたり。  パンは形や動きを想像すると、その通りに変化した。    けれど私が空を飛ぼうなんて考えるのはそれから約三年がたった頃だった。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!