第八話「Just the way you are」

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「働いてもいいし、何か習い事をしてもいいし、何なら大学に通ってもいい。何をするのも君の自由だ」  思いがけない彼の言葉に、花衣は驚いて目を見開いた。 「幸い俺には、親が残してくれた遺産がある。趣味がないせいで、自分が稼いだ金も貯まる一方だしな。だから君一人養うくらいの金はある。君がよほどの浪費家なら別だが、そうだな、毎日ジムに通って観劇して、洒落たレストランでランチやディナーして、といった程度の生活なら、死ぬまでさせてやれると思う。一年くらい世界一周クルージングがしたいなら、今の仕事を他の奴に任せて俺も付き合おう」  彼女の手を握ったまま、一砥は淡々と答えた。  花衣は震えそうな声で、「本気で言ってますか?」と訊ねた。 「俺はいつも本気だ」 「私が主婦になるの、反対じゃないんですか?」 「別に」と一砥は素っ気なく言った。 「主婦になりたいならなればいい。俺が望むのは君が幸せで、いつも笑顔でいてくれることだ。デザイナーを諦めると言うが、諦めることはない。また勉強を始めたくなったら、いつでも始められるだろう?」 「でも、そんな我儘が、許されるんでしょうか……」  予想もしなかった彼の返事に、花衣は戸惑いも露わに呟いた。     
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