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今日こそ、殺されるかもしれない。
夕方の情報番組が終わりに近づく。明るいスタジオの中、華やかな笑顔のキャスターやアナウンサーが、これから始まる解放的な夜の時間をいかにも楽しみにするように「ご覧いただき、ありがとうございました!」と締めくくる。この後彼等にはどんな楽しいことが待っているのか。六本木や渋谷に繰り出して飲み会か。それとも高級ホテルのバーでデートか。マスコミという選ばれた人間しか入ることの許されない、エリート中のエリートが過ごすキラキラと輝くように満ち足りた時間に違いない。
もうあと数分で、私には地獄が訪れるというのに。
テレビのリモコンを持つ手は、痣だらけだ。
毎晩毎晩、殴られ、蹴られ続けている。
「お前のせいだ」
「お前が、あたしの人生をメチャクチャにしたんだ」
叫ぶように怒鳴り、拳を振り上げる。
押しとどめる睫毛を失った目から、ボタボタと涙を零しながら。
私は謝る言葉を持たない。どうしたらいいのか、分からない。
私にも、どうしようもなかったのだ。私にも、他の道が見つからなかったのだ。
もう、ここに行きつく道しか、私には見えなかった。
つまり私は、自分を滅ぼす道しか見ていなかったのだ。
娘の幸せを望んでいた筈なのに。
もうすぐ、娘が帰って来る。
私を憎む娘が、帰って来る。
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