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第一章 ママ友
私の名前は飯野良子です。
年は37歳、同い年の主人と小学五年生の娘の三人家族です。
主人は大手企業の下請け会社で、システムエンジニアをしています。
私は専業主婦です。事務職として就職した会社で、主人とは同期でした。職場結婚です。結婚して間もなく子供が出来たので、それを機に退職して、家庭に入りました。
東京都校外で生まれ育ち、結婚するまでその実家で暮らしました。市立小中、都立高に通い、短大では英語を勉強しました。ごく普通の子どもが、ごく普通の大人になった、そんな感じです。
主人の実家が世田谷にあり、結婚後は私も世田谷に引っ越しました。主人は長男ですが、主人の両親はすでに結婚している姉一家と同居をしているので、私達は近くのマンションに住むだけでOKでした。義母はお姑さんに苦労した方で、私に同じ思いをさせたくないと言ってくれて。優しい方です。主人も義母に似て、優しくて温厚な性格です。見た目は地味で中肉中背、本当に冴えない人ですけど、そういう人じゃないと私の方が気後れしてしまって、一緒にいられません。幸せな結婚が出来たと思っていました。住む場所が世田谷になったのも、学生時代の知人達に羨ましがられましたし。というか、悪口を言われていたみたいです。私なんかが、世田谷に住むなんて、って。私自身地味で目立たず、そんな自分に自信が無くて、一層隅の方に引きこもってしまうような生徒でした。そんな性格なので、心を開ける友達もおらず、いわゆるスクールカーストでも下層に見られていました。そう、聞いたことがあるのです。中二の時、新しいクラスになってもう半年も経とうという頃。忘れもしません。体育の後、教室に入ろうとした時、体育をサボったカースト最高層女子達が話していた会話。
「あの、窓際の席でさ、前から三番目の、おかっぱ。えーと、名前、何だっけ」
「あれ、なんだっけ。あの地味ーな」
「そう、地味ーな」
「地味ーなでいいじゃん、名前」
私のことです。同級生のゲラゲラ笑う声を扉の陰で聞きながら、笑い声がこんなに人の心を傷つけるのだと、私は初めて知りました。
そんな存在なのです、私は。同じクラスになって半年も経つのに、名前も覚えられないような、空気よりも薄い存在。
そんな私が、結婚は同級生のなかで、一番早かったのです。
そして世田谷に住んでいるのも、私だけです。
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