第一章 ママ友

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 以前、すぐに帰るつもりで近所のスーパーに買い物に行っていたら、その間に帰宅した菜摘が私の不在にパニックを起こして窓から「ママ!ママ!」と大声で泣き叫び、お隣の奥さんが慌ててスーパーまで私を呼びに来てくれたことがありました。幼いんです。本当に、菜摘は。誰もいない家に一人で帰宅させることは難しい…そこで、お友達のおうちに帰らせてもらうことを頼もうと、考え付いたのです。  とても仲良くさせてもらっているお友達が、近所にいるのです。  菜摘がまだ赤ちゃんの頃、児童館の赤ちゃん広場で会って以来ずっと一緒の、小宮鈴香ちゃんです。美智子さん…鈴香ちゃんのお母さんですが、彼女はとてもしっかりした子育てをする人で、手塩に掛けて育てられている鈴香ちゃんも礼儀正しく賢くて、子供のお手本のようなお子さんなのです。その上母子揃ってとても気さくで親切で、そんな方とずっと仲良くさせてもらっているのは、本当に私は運がいいとしか言いようがありません。  美智子さんに菜摘を頼むためメールをしようと思ったのですが、ふと思いとどまりました。学校帰りに直接お宅に伺わせるとしたら、おやつを持たせられません。お友達のおうちに遊びに行くときは、みんなで食べるおやつと遊ばせていただくおうちへのお土産を持たせるのが、小学生ママの間での暗黙のマナーです。働いているママのおうちは別ですが、うちのような専業主婦の家でそれをしないと、あっという間に話は広まります。 「あの家の子、遊びに来るのにおやつも持って来なかった」…そういう気の利かなさは、ママ同士の人間関係では毛虫の様に厭われます。  頼むとしたら直接会って、OKだったらその場でおやつとお土産を渡そう…そう思い、土曜日の授業参観の時、美智子さんにお願いすることにしました。  土曜日の空は、冬らしい冴え冴えとした青が広がっていました。  穏やかに日差しは降り注ぎますが、きりりとした冷気が温かさを阻み、「学校公開中」の看板が掲げられている校門を通り過ぎる保護者達は、一様に寒そうに肩をすくめ、校舎内に足早に入って行きます。  その流れに乗って私も昇降口に駆け込むように入りました。保護者用の昇降口は「寒いねー」と口々に言い合う保護者でごった返しています。
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