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HRも終わって帰りの準備をしていると、机の左側に希望がしゃがみ込んだ。
「光、かえろ」
「あーごめん、ちょっと図書室に本返しに行かなきゃいけないから先帰っても良いよ」
「俺もいく」
子犬の様な表情で上目使いにそう言う相手に、つい頬がゆるむ。
その頭をぽんぽんと撫でて立ち上がる。
「何借りたの?」
「これ『黒マリアの歴史』」
「…光、なんか悩んでる?」
「いや正常だから」
廊下を歩きながら鞄から黒い布地の装丁に銀文字のタイトルが入ったハードカバー本を取り出せば、希望が不安げにこちらの顔を覗き込んできた。
「梅にも変な宗教はまってんのかとか言われたけどさ、そういうんじゃないから」
「ほんとに?」
「黒マリアってヨーロッパで元から信仰されてた地母神が、キリスト教の広がりによって吸収された結果できたものなの。その歴史について書いてあるから、面白くて」
「そういうの読むの珍しくない?……誰かのおすすめ?」
トーンダウンした声に隣を見れば、少しすねた顔が目に入った。
(ほんと変わんないな)
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