四葉の君と王子様

5/15
前へ
/15ページ
次へ
ずっと近くにいるせいか、希望は自分の知らない私の交遊関係があると不安になるらしい。 昔は確かに希望は私以外あまり仲の良い友達がいなかったから、唯一の友人を他の友人にとられてしまうと不安になるのも分かる。 しかし今やきちんと彼にも友達はいるのだから、そこまでネガティブにならなくても良さそうなのだが。 梅に重い男だなと言われたが、甘えられて悪い気がしない自分も大概だと思う。 「この本、いつも見に行く純文学コーナーに混ざって置いてあってさ。装丁もこんなだから気になって手に取ったらこれが入ってて」 私は手にしていた本を開いて、そこに挟まれていた和紙のしおりを取り出して見せた。 「四葉のクローバーだ」 「前の人の忘れ物だと思うんだけど、懐かしいよね」 暖かみのある黄みがかった和紙のしおりの真ん中に、四葉のクローバーが収まるそれをそっと撫でる。 「光とよく探したよね。俺の名前と意味が一緒だっていって」 昔から本が好きだった私は、物語に出て来た『クローバーは希望という意味を持っている』という一説を読んでその事を知った。 そこには『きぼう』とルビがふられていたが、希望と同じ字だからと記憶に焼き付いたのだ。 以来、光と四葉のクローバー探しをするのは定番の遊びになっていた。 「花冠も作ったよね、シロツメクサで。希望によく似合ってて、可愛かったなー」 「今の俺はもう可愛くないもんね」 「可愛いっていってほしいの?」 「優しくされたい気持ちと頼られたい気持ちが揺らぐ複雑な男心」 その様子に笑ってしまえば、希望はまたすねた顔をした。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加