椿の花が笑う時

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 俺はこの事件を知っている。  暗殺法ができてすぐの殺人だったため、誰かに暗殺されたのではという噂が立っていた。結局、犯人は見つからなかったし、暗殺は成功したということだ。  金を使って、人が殺されたのだ。  衝撃的だった。これから俺は同じように人を殺していかなければならないのかと思うと気が気でなかった。  事件からしばらく経ってから事件現場に足を運んでみた。電柱に花束が置かれていたのを今でも覚えている。きっと涙の跡もあったのだろう。悲しみの空気も漂っていたのだろう。  ただ、この国のどこかに恨みを晴らしてほくそ笑んでいる人間がいると思うと、臓器をミキサーにかけられたような気分だった。きっとその時に、俺の心は粉々になってしまったのだろう。  形を失った心は人を殺すことになんの抵抗も示さなかった。  吹き上がる血の色も匂いも分からなかった。  そこにいるのは殺人鬼とターゲットだけ。俺という存在はいなかった。
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