椿の花が笑う時

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「そんな……」  今まで飄々としていた少女は急に不安げに顔を歪めた。こんな大金を女子高生が用意するのは容易ではない。だからこの反応は当たり前なのだが、 「諦める気はないのか?」  普段の俺ならそんなことは言わないだろう。みすみす客を逃してしまうくらいなら、ギリギリまで金額を下げてでも仕事に移す。  しかし、今回の相手は無垢な少女だ。年端もいかない女の子から金を貰って人を殺すというのは、俺の中の米粒並みの良心が頷かない。  それならきっぱりと断ってしまえばいいのだが、良心よりもずっと強大な好奇心が勝ってしまっていた。  この少女の事情とやらを覗いてみたくなった。  人を殺したい事情を。 「私は諦めない」  少女は不安な色を隠せないその瞳で真っ直ぐに俺を見た。その直視にどんな意味が込められ、何を訴えているのかは眠っていても想像できる。ただその想いや願いのバックグラウンドまでは計り知れない。それを知るためには、 「詳しい仕事内容を聞かないことにはなんとも言えないが、いいだろう。三百万円。お前が払う命と罪の値段だ」  少女は安堵した。そして、 「ありがとう」 無邪気に笑いやがった。
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