椿の花が笑う時

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 俺は正義の味方でもなければ頼れるヒーローでもない。ただの殺人鬼だ。  それでも俺にできることで、目の前の少女を助けられるのならば――――なんて漫画の登場人物のようなことを考えてしまった。そういう思考を働かせてしまったのは真実で、それは隠しきれない事実だから。  俺は嘘をつけない。 「ツバキはそいつを殺したいのか?」  俺は問う。 「うん」  少女は答える。 「捕まえたい、じゃなく?」 「うん」 「それほどまでに恨んでる?」 「うん」 「辛かったのか?」 「うん」  徐々に涙声になっていく。俺は察して、問うことをやめた。ツバキの言葉を待った。 「もう我慢できない。私も母さんも妹も。私たちの人生を壊した奴に復讐したい。それを父さんが望んでないことも想像できる。それでも、私の心は思ってる。それは事実だから」  ツバキは歯を食いしばった。悔しいけど、と呟く口の横を涙が流れる。自分自身が許せない。天国の父に申し訳ない。それでも憎い。忌まわしい。厭わしい。  一粒の涙を目にした途端、ツバキの感情が流れ込んできた。握りしめられたように胸が痛い。そう感じることが嬉しかった。薄汚れた俺の心はまだ感動できる。生きている。それを実感できたのは実に三年ぶり。初めて人を殺して以来。  俺はまた心から人を殺せる気がした。 「分かった」  心は決まった。 「俺が殺す」  少女は顔を上げる。潤んだ瞳に光が灯った。 「……ありがとう。えっと、アパート?」 「パエートだ」  ツバキは笑った。綺麗な笑顔だった。
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