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信之は小学校六年生の夏、初めて自分の人生に関わる手紙を出した。
『信之へ
中学校は楽しいですか?
何部に入りましたか?オレはサッカー部と野球部のどちらに入ろうか迷っています。
母ちゃんが勉強しろとうるさいですが、小6の勉強は役に立つ気がしません。
今は遊びが一番な気がします。
小学校の残りも少ないからたくさん思い出をつくろうとおもいます』
2日後、郵便受けに自分宛の手紙が届いた。差出人は筆跡を見れば一目瞭然だった。
信之は手紙を一読し、すぐに母親のもとへ走った。
「母ちゃん!オレ勉強頑張るから聖青葉中を受けたい!」
二学期から本格的に塾に通い、猛勉強の末、信之は私立の聖青葉中学校に合格した。担任からは奇跡だと賞賛され、クラスメイトからは羨望の眼差しを受け、母親は入学式で涙を流していた。
信之は元々勉強が苦手だったわけではなかったが、何より受験をする自信となったのは、手紙の返信内容だった。中身を要約すると、受験をして私立中学に通い、野球部で活躍する、ということだった。つまり必ず受かるとわかっていて臨んだ受験なのだ。
聖青葉中は信之の住む街で唯一の私立中高一貫校で、あまりにも低い点数を取り続けない限りエスカレーターで高校にも進学できる。大学の進学先も良く、文武両道の学校と言われていた。
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