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――2人の尋問から解放され、僕はようやく家路に着くことが出来た。
(兄さんもう家にいるのかなー?)
足止めされたけれど、この調子なら殆ど予定に狂いなくマンションに着けるだろう。
『7日後って何の日か知ってるか?』
『あ…、いいんだっ。分からないなら』
……けれど、意外だったな。
兄さんに記念日の概念があるなんて。
誰かの入れ知恵だろうか。
だとしたら、その誰かは簡単に特定出来ちゃうのだけれど。
本当は、記念日が何たるかは僕が教えたかった。
でも誰かさんの入れ知恵がなかったら、今日までの7日間の兄さんの挙動不審を見られなかったのだから、良しとしておこう。
じーっと常に携帯の画面とにらめっこしてさ。
傍らで僕がちょっと動いたり話しかけたりする度に、慌てて携帯を隠してそわそわするの、あからさま過ぎて可愛かったなぁ。
「あ! そうだ!」
この紙袋、何も言わずにわざと兄さんの前に置き去りにしてみよう。
で、どんな反応するかこっそり観察しよう。
あわよくば、その様子を動画に撮りたいな。
(あー、帰るのがますます楽しみになってきたーっ)
助手席には、専用の紙袋に保管したリングケースが座っている。
信号で止まる度にそれを一瞥しては、兄の反応を思い浮かべて胸が踊った。
いつもツンと澄まし顔を装うあの人は、今日僕にどんな表情を見せてくれるだろう。
喜んでくれるのは間違いないのだ。
僕があの人を大好きなように、あの人も僕が大好きだから。
(おわり)
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