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”僕、仕事休もうか?”
見兼ねたように那月はそう言ってくれたけれど、こんなくだらない理由で彼の足を引っ張るわけにはいかない。
『俺は現役の内科医だ。お前よりも対処には自信がある』
出勤を躊躇い始めた那月に反発するように言って、
『その現役内科医様がこのザマだから不安なんだよ』
と、秒速でぐうの音も出ない正論を叩きつけられたが、なんとか彼を送り出すことが出来た。
「ふぅ……」
那月が仕事に出て家に一人になった俺は、額に冷却シートを貼って自室のベッドで大人しく横たわっていた。
「ぴゃー、ぴゃー」
ぼんやりした頭に、ノラの鳴き声が響く。
遊んでほしいのかもしれないが、今日はその要望に応えられそうにもない。
さっきから頬をぺちぺちと肉球で叩かれているが、良い反応も出来ない。
「……ほら、これで遊んでいい子にしてて…」
「ぴゃー」
のろのろと身体を起こしてベッドから降り、おもちゃ箱からノラのお気に入りを渡す。
まんまと釣られてくれたノラを横目に、俺は再びベッドへ潜り込んだ。
少しばかり毛布の中から離れただけだというのに、たちまち身体が冷えていく。
内側からの逃れられない嫌な寒さに、俺はベッドに戻るや否や身体を縮こめた。
不幸中の幸いか、今日は元から仕事が休みだ。
身体が辛いことに変わりないが、それを考えただけで気が随分楽になる。
…本当に良かった。
こんなのが病院のトップだなんて知られたら信用問題に関わる。
どうにか収まってきた古参との妙な派閥も再燃しかねない。
(少し、眠るか…)
身体の怠けに逆らわず、素直に目蓋を閉ざす。
せっかくの休日で有り余る時間だが、今日は読書も勉強も控えよう。
明日の仕事に支障を出したくないし、何より、職場の人間にも身体の不調を勘付かれたくない。
とにかく少しでも回復出来るように、今日一日中は大人しくしていよう――…。
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