△月○日

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しかし、来週の木曜日とは。 えらく早いな、と思った。 2、3日、最長でも1週間。 彼にとって深刻な事柄なのだから、弟に掛け合うだけですらそれぐらいの時間を要すると思っていたのだが。 (話したか?) とは思ったのだが、美鷹香月の表情は決して晴れやかなものでもなくて。 話を通して弟が味方に着いたのなら、余裕ある態度のひとつくらい見せてくれてもいいものなのだけれど。 「弟さんに気に入って貰えると良いのですが」 ……何はともあれ、早い段階で話を進められるというのなら有難いことだ。 来週の木曜日、夕方か。 場所の確保を急がないとな。 家に帰ったら、途中で放置していた料亭探しを再開せねば。 (正念場というやつだな) ――俺は俺なりに、美鷹香月が報われることを願っていた。 なんせハピエン厨なものでして。 いくら書くもの書くものがシリアス18禁ばかりとはいえ、再三不幸に貶められた登場人物が幕閉じの瞬間まで不幸なままで終わるのは納得がいかないのです。 それは机上の物語だけではなく、この現実世界にも言えること。 報われるべき人が幸せになる展開は、決してご都合主義の物語なんかではない。 ”彼にとっての私は、特別でも何でもないのです” ”いつか彼は、彼にとっての特別な人を見つけるのでしょう。私は、それが怖いのです” ”あの人と、離れたくない” 少しでも、僅かでも、自分を責め苛む彼の心が晴れる切っ掛けを探れたのなら。 俺と美鷹香月の予後がどうであれ後味の悪い思いをすることなんてないだろう…なんて、俺は楽観的に捉えていた。 だって功を成したその未来には、報われた美鷹香月が存在しているということなのだから。 懸念するべきは美鷹ナツキの方だ。 俺や美鷹香月の行く末がどう傾くのかは、結局全て彼に掛かっているのだ。 誰も彼もが、兄弟に好意を寄せられて嫌悪感を抱かないわけじゃない。 こればっかりは実際の交流で人格に触れてみないと分からない。 人混みの中で恥じらいなく堂々と兄の手を繋げる、あの優しそうな横顔と雰囲気を信じるしかないのだ。 例え彼が、兄の想いを受け入れられなかったとしても。 己の身から出た錆とはいえど、弟である自分のために下衆い人間の手に囲われていた兄を、一方的に罵倒して軽蔑してひどく拒絶する真似はしないだろうと。
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