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第3章:弟からの最後のおねがい
兄の卒業式には行かなかった。
在校生はクラス委員は必須で、そのほかは参加してもしなくてもいいことになっていた。人気者である兄を見たら、きっと嫉妬してしまうだろうと想像できた。
兄が、誰かと遊びに行ったとしても、必ず家に帰ってくる。だから、家で待っていればいい。そう思っていた。
母は父の仕事の手伝いがあるらしく、卒業式に行けないと嘆いていた。そのかわり、入学式には行くのだと息巻いていた。
(母さんは、血のつながりなんて気にしていない)
当たり前だ。自分よりもずっと前からその事実をわかっていて、承知して父と結婚したのだから。兄もまた母への態度は、どこからどうみても親子だった。
結局、気にして大騒ぎしたのは自分だけで、血のつながりはなくとも、両親は自分を大切にしてくれているし、兄は血のつながりのない自分を弟としてかわいがってくれた。
自分が未熟なだけだと、改めて気付かされた。
(兄ちゃんに謝りたい)
また殴られるかもしれないけど、それでも兄と次に会えたときに、少しでもいい関係でいられるように今のうちに謝っておきたいと思った。
そしてこの兄への気持ちは、どこへしまっておけばいいのだろうか。兄と一度でも体をつなげられたあの汚い女たちでさえ、自分と違って兄とは普通に会話できる。
それに比べたら、自分は兄から見たら最下層の人間だ。だって、兄の性欲を満たす存在にすらなれないのだから。
「ただいまー」
思わず時計を見た。まだ午後一時をまわったくらいなのに、あまりにも早い帰宅に驚く。まだ寝起きのパジャマのままの自分は、居たたまれなくなり部屋をぐるぐる歩く。
「要、入っていいか?」
「え? あ、うん」
まさか兄が自分の部屋にくるとは思わなかったが、拒む理由もないので返事をする。兄はふつうに部屋の扉を開けた。
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