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第1章:モテる兄を持つ弟の苦労
今までが一緒にいすぎたからだと思う。
兄、獅子ケ谷徹は高校ではテニス部に入部し、途端に家にいる時間が少なくなった。兄が家にいるときは、たいてい疲れて寝ていたので声も掛けづらかった。だから、毎月のあの日だけが自分にとって兄と過ごせる唯一の時間だった。
時々、兄が家に友達を連れてくることもあった。決まって女だったことも知っていた。はじめてのときは、彼女なのかと思ったが、兄が『違うよ』と笑って否定するので気に留めなかった。ただ連れてくる女が毎回違うことに違和感を覚えていたのは事実だ。
自分が知らなかっただけで、あのような行為は毎回行われていたのだろう。
その一件以来、兄にべったりという関係ではなくなった。兄に変化はない。自分が意識して避けてしまっているだけだ。
あの行為がどういう意味を為すかは、理解している。直接、自分が経験したことはないが、自分にはまだ縁のない世界だと思っていた。それなのに兄が自分よりも先に大人の階段を登っていたことに、嫌悪感を覚える一方で、あの光景が目にやきついて離れなかった。
揺さぶられる腰、振り乱した髪、女のとぎれとぎれの吐息混じりの声。それに比べて兄の冷静な態度。引き締まった肉体、気づけば大人になっていた滾った性器、そして、作業のようにすら感じる淡々と揺さぶるその腰。
あの行為を見ながら、あのときの自分は勃っていた。
兄の情事で、自分の中心が熱くなるなんて最低だと思う。しかし、間違いなく自分が欲情したのは、兄に対してだった。
要は、兄と同じ学校に進学した。自分は、学校の成績だけはよかったので、進学校に進むこともできたが、自分のレベルを落としてでも同じ高校に行きたかった。兄を避けていながら、兄のいる場所に行きたかっただなんて矛盾しているが、そのときの自分はそうだった。
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