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「兄ちゃん、ちょっといい?」
「ん、何?」
リビングで漫画を読んでいた兄に声をかけた。
「昨日さ、兄ちゃんの同級生らしき女の人に呼び出されて、和田さん?って人のこと聞かれたんだけど」
「あー、あれか」
「和田さんって兄ちゃんの彼女なの? 彼女いるのに他の女と……」
「アイツが勝手に言ってんだろ。俺は彼女なんて作ったことねーよ」
「でも、お兄さんに言っておいてって言われた」
「ほっとけほっとけ。巻き込んで悪かったな」
「別にいいけど」
こんなことは日常茶飯事だった。
兄はヤルときだけ連絡して、そのあとは、すぐ別の女にうつるのでこうした揉め事に自分が巻き込まれることは慣れていた。それでも自分は、兄にそういうことはやめてほしいとは言わなかった。男として軽蔑してもいいほどの行為なのに、兄に非があるのは明らかなのに、それでも兄のことを責めなかった。それには理由がある。
自分は、あのとき目撃した光景の、兄の姿を思い出しては、自慰行為を繰り返していたからだ。
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